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岡山地方裁判所 昭和46年(ワ)420号 判決 1982年9月09日

原告

阿部保夫

ほか一名

被告

大西英亘

ほか一名

主文

一  被告両名は各自、原告阿部保夫に対し金一六七万一〇〇一円およびこれにつき昭和四六年五月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告両名は各自、原告柚上賢二に対し金四四万九六〇〇円およびこれにつき昭和四六年五月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告両名に対するその余の各請求は、いずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告両名の、その一を原告らの各連帯負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限りいずれも仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告両名は各自、原告阿部保夫に対し金二一六万五〇九五円およびこれにつき昭和四六年五月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告両名は各自、原告柚上賢二に対し金七六万一〇〇〇円および内金五六万一〇〇〇円については昭和四六年五月二三日から、内金二〇万円については昭和五一年六月一六日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告両名の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和四六年四月一〇日午前八時三分ころ

(二) 場所 岡山県玉野市日比三丁目一番二七号県道交差点

(三) 態様 原告柚上は、原告阿部(阿部組)の従業員であるが、右阿部所有のダンプカー(一〇五トン車)に積荷を満載し、前記交差点を北から南方日比に向け、青信号に従がい時速五〇キロメートルくらいで進行中、被告会社の従業員運転手である被告大西が被告会社所有の大型バス(岡二い一六九五号、乗客四、五〇名)を運転し、赤信号を無視して同交差点内に進入、原告柚上運転車の進路上に出んとしたので、右原告は同車との衝突を避けんがため、止むなく右に急転把し、このため右バスとの衝突は回避し、もつてその乗客に及ぼす重大な危害は防止したものゝ、右原告車は如何ともなすすべもなく、同交差点西南角にある玉野市日比出張所の建物とその西側に接する高尾酒店に突入、右原告車は大破、運転者である原告柚上も入通院加療を要する傷を負つた。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告下津井電鉄株式会社は、加害車(大型バス、岡二い一六九五号)を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告大西を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として右加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

(三) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告大西は、自動車運転者として、自動車を運転進行するにあたつては、信号機の表示する信号に従がい進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、自己の従がうべき信号は赤色を表示していたのに、これを無視して信号により交通整理が行なわれておる交差点内に進入した過失により、おりから同交差点を青色信号に従がい直進通過しようとした原告柚上運転車両をして、本件事故を発生させた。

3  損害

(原告阿部保夫の分)

(1) 破損自動車修理費

金九六万九〇四〇円

(2) 転倒したダンプカー引揚げ料(クレン車代)

金一万五〇〇〇円

(3) 事故車を修理工場まで廻送費

金一万円

(4) 建物破壊に伴なう弁償金

金六〇万〇八二〇円 玉野市役所日比出張所の建物破壊のための復旧補修弁償金

金七万円 右出張所隣家である高尾酒店破壊のための補修弁償金

(5) 休車損

金四六万一一八一円

自動車の修理期間二か月と五日間の得べかりし純益損、即ち、一か月間の平均水揚五三万〇三〇二円、事故車である一〇五トン車(貨物自動車)が就業のために要する一か月の経費三一万七四四九円を控除した一か月の純益二一万二八五三円の割合で算出し、その六五日間分

(6) 原告柚上の治療費代払(本人に支払能力ないため雇主として立替払)

金二万四五四九円

昭和四六年四月一〇日から同月末日までの松田外科医院への支払治療費

金七三三五円

同年五月一日から同月一五日までの村山外科支払治療費(自己負担分)

金七一七〇円

同年四月二一日から同月末日までの同外科支払分 (右同)

以上(1)ないし(6)の合計金二一六万五〇九五円

(原告柚上賢二の分)

(1) 休業による給与損失

金二三万一〇〇〇円

昭和四六年四月一一日から同年六月一五日まで入院五六日、翌六月一六日から同年七月六日までの間に通院二一日、合計七七日間、一日金三〇〇〇円の割合による。

(2) 慰藉料

金二〇万円 入院期間中

金三万円 通院加療中

金一〇万円 刑罰を受ける破目に陥れられたことに対するもの(目下正式裁判中)

金二〇万円 警察と被告らの両者から長期間追及され、そのうえ、刑事被告人として裁判に出廷、社会からも誤解をうけ、冷眼視され、今日まで補償はおろか、見舞すら受けたことがない。のみならず、なお過失があるとの批難を受けている。かような状況下におかれた精神的苦痛に対するもの。

右(1)、(2)の合計金七六万一〇〇〇円

4  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。なお、原告柚上の請求する二〇万円の慰藉料については無罪判決宣告の翌日たる昭和五一年六月一六日から、その余にあつては、いずれも被告らに支払催告をした日の翌日以降とす)を求む。

二  請求原因の認否

1項(一)、(二)は認める。同(三)のうち、ダンプに積荷を満載し(二)の交差点を北から南方日比に向けて進行していた事実は認めるが、右車両の進行速度は争う。

2項(一)は認める。

同(二)は、過失の点を除き認める。

同(三)は争う。

3項(損害)は争う。

三  被告らの主張

1  免責

本件事故は、原告柚上の一方的過失によつて発生したものであり、被告らには自動車の運行に関し不注意はなく、自動車にも構造上の欠陥、機能上の障害もなかつたから、被告会社には損害賠償責任がない。

即ち、被告大西運転車両は、東から西に向い進行していたが、事故発生現場は、当時赤信号であつたので一旦停車していた。原告柚上運転車は、北から南に向け進行していたが、当時青信号であつたと思うが、その速度は相当高速であつたところ、事故直前に赤信号に変つた。そこで、被告大西車は一旦進行しようとしたものゝ、右原告の暴走を見たので急停車して同車の通過するのを待つていた。

然るに、同車は高速のため、信号が赤色に変つたので急停車しようとしたができず、自らハンドルを切り違えて本件事故を惹起したもので、被告とは何の関係もない。

2  使用者責任

被告会社は、被告大西の選任、業務執行につき相当の注意を払つていた。

即ち、選任については、従前の運転歴、人柄等の調査と共に面接選考を行ない。人命を預るバス運転者としての適格を調査し、業務執行については、法規に定める安全運転管理者などを置き、組織的に事故防止に努めているだけでなく、安全運転については普段から十分注意、教育を行なつている。

よつて、被告会社には、民法七一五条による賠償責任もない。

3  本件事故の発生原因

本件事故は、さきのとおり、信号が既に赤色に変つているにも拘らず、急ぎ交差点を南進通過しようとした原告柚上運転のダンプカーが、同じく同所を東より信号が青色に変ると同時に発進して西進する被告大西運転のバスを認め、本来ならそのまゝ直進しても衝突する状況にはなかつたのであるが、自車の速度が制限速度をこえる毎時六三キロ以上の高速で走行していたため、正確な情況判断ができず、右に急転把するほかはないと速断してこれに従い、しかも急制動を併用したため、積荷、急転把、高速、急制動のため左側車輪に加重がかゝり、チユーブが疲弊していてこの負荷に耐えきれず破裂し、その結果、右ダンプカーが左方に横転し、民家等に破損を生じさせたものである。

四  原告らの反論

本件事故発生の原因は、被告大西の赤信号無視にある。

事故発生当時の状況を詳述するに、原告柚上は、前記ダンプカーを運転し、時速五〇キロメートルくらいで青信号に従がい本件交差点に進入せんとした。同交差点進入前後のころ、見とおしの悪い左側交差点入口の停止線に停止中の被告大西運転にかゝる被告会社所有の大型バス(乗客を満員に近いほど乗せていた)が赤信号を無視して、するすると右交差点中央に向け進入してきたので、驚いた右原告は咄嗟に右に急転把する以外に方法がなかつた。何故なら、そのまゝ直進すれば、右バスに激突して一大事を惹起する危険があり、普通に右転把して、西から東に向う交差点入口に向けてこれをかわさんとすれば、そこには青信号に変るのを待つている多くの自動車、オートバイが停止しているので、原告車を突入させることはできない。

結局、右バス乗客の安全を守るためには、身を挺して転倒しても、危険を避ける手段として右に急転把するしかなかつた。このように右原告のとつた措置は、まさに緊急避難行為であり、不可抗力である(尤も、結果的には、被告大西運転のバスは交差点中心に達する前に停止したが、この停車を予知できない状況下にあつた同原告に対し、その非を問うことはできない)。なお、同原告は、さきのとおり、事故当時時速五〇キロメートルくらいで進行していたものであるが、たとえ、車両運転速度が若干超過していたとしても、それと本件事故発生との間に因果関係はない。

およそ、自動車運転者が、信号機により交通整理が行なわれている交差点に進入する場合には、何人といえども信号を無視して交差点に進入するものはないと考えて車両を運転しておれば十分であり、原告柚上には何らの過失もなく、本件事故は被告大西の一方的過失によるものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。(三)の事故の態様については、いずれも成立に争いのない甲第一七号証(原本の存在も争いなし)、乙第一、第二、第四、第五、第六、第八、第九、第一〇、第一一、第一九、第二〇、第二五、第二七号証および証人小野年の証言(第一、二回)を総合すると、つぎの事実を認定できる。

1  本件事故発生現場交差点の形状は、別紙見取図のとおりで、信号機による交通整理が行われている。和田新道(原告柚上運転車進路)は北から南に向つて一〇〇〇分の五三・三の下り勾配で、幅員は交差点手前の停止線北方六〇メートル附近で九メートル、右停止線附近で一三メートルである。御崎和田方面からの道路(被告大西運転車の進路)の幅員は交差点手前の停止線東方一〇メートル附近で五・七メートル、右停止線附近で一四メートルである。児島方面への道路の幅員は事故発生地点附近で五・八メートル、日比港方面への道路の幅員は一〇メートルである。右原告車進路に対面する交差点信号機の信号周期は、青色表示三五秒、黄色表示四秒、赤色表示四四秒で、被告大西車進路に対面する交差点信号機の信号周期は、青色表示三二秒、黄色表示四秒、赤色表示四七秒である。前記各道路は、いずれもアスフアルト舗装されており、事故発生当時天候は晴で路面は乾燥していた。

本件交差点の東と南の入口には横断歩道橋が架設されており、原告車進路から左の交差道路(被告大西車進路)への見通しは、建物および歩道橋に遮られて悪く、右の交差道路への見通しも建物に遮られて良くない。被告大西車進路から右の交差道路(原告車進路)への見通しは、建物と歩道橋に遮られて悪く、左の交差道路への見通しも塀や樹木に遮られて良くない。

2  原告柚上は、山土五立方メートルくらい(重量約八トン)を積載したダンプカー(岡一ま七七九号、積載量一一トン、車両幅員二・四五メートル、車長七メートル弱、車高二・八メートル位―原告車という)を運転して、和田新道を南進し、玉野市日比三丁目一番二七号、第二日比小学校前の交差点(本件交差点)にさしかゝつたが、原告柚上は同交差点を直進して日比港方面に進行するつもりであつた。

一方、被告大西は、当時乗客六〇名位が乗車したバス(定員七二名、車両幅員二・五メートル、車長一一メートル、大西車ともいう)を運転して、御崎和田方面から西進し、本件交差点にさしかゝつたのであるが、このバスは宇野発倉敷行の定期バスで、同交差点を直進して児島方面に進行するつもりであつた。

3  原告柚上は、前記ダンプカーを運転して南進中、本件交差点の停止線の手前(北方)約一二〇メートルあたりで、自車進路交差点の対面信号機の表示が赤色から青色に変つたのを認め、時速約六〇キロメートルで交差点を直進通過しようとして、前記停止線の手前四メートルあたりに達した時に、左の交差道路から赤色信号を無視して交差点内に徐行(原告柚上は徐行よりは速いと感じた)進入しつつある大西車を同車進入路側停止線から約六メートルばかり交差点に入つた地点(この時の彼我の距離は約二〇メートル)に認め、にわかに衝突の危険を感じ驚愕して、衝突を避けんがため警音器を吹鳴すると共に、右方へ急転把し、急制動したところ、遠心力のため大西車発見地点から約一〇メートル程過ぎたあたりで右車輪が浮上り右カーブを描いて進行後、本件交差点の南西角に横転し、玉野市役所日比出張所庁舎および隣家高尾勝郎方居宅の一部を損壊した。

なお、原告車が本件交差点に進入する時、同車は道路中央線を完全に右へ越していた。

4  被告大西は、前記バスを運転して本件交差点の停止線の手前(東方)五メートル附近にさしかゝつた時、自車進路交差点の対面信号機の表示が赤色であつたため、停止線の直前で一時停止したものの、なお対面信号が青色を表示しない間に時速約五キロメートル程で交差点内に進入したところ、おりから右の交差道路を高速で南進してくる原告車を発見して交差点内に停止したが、その停止位置は少くとも交差点中心のセンター標示を越えてはいない。

右の認定に反する乙第二七号証中の「被告大西車が停止線から五メートルくらい進行した地点で、右停止線より北方六九メートル(この距離は乙第四号証中の検証時における被告大西の指示説明により算出したもの、乙第二七号証中では、七・八〇メートルという)あたりを時速七・八〇キロメートルで南進する原告車を発見したもので、自分は青色信号に変つてから、すぐ発車し交差点内に進入した」旨の供述、乙第四号証中の「停車して赤色信号の変るのを待つていると、対面の信号が青色に変つたので発進し交差点内の歩道橋を出たあたりで、右側約六九メートルくらいのあたりにダンプカー(原告車)が時速約七〇キロメートルで交差点に向つて坂をおりてくるのを認め、ダンプカーの様子から交差点の手前で停車しないと思つたので、自分はブレーキを踏み、一・三メートル程先に停車した」旨の指示説明、被告大西本人尋問の結果中の「対面信号が青になるのを確認して時速四・五キロメートルで数メートル進行したが、自分は信号が青でも本件交差点にあつては左右の安全確認をするので、右方を見たらダンプカー(原告車)が時速八〇キロメートル以上と思われる高速で進行し、積荷の状態からもブレーキを踏んでも間に合わないと思えたので、停車して原告車の方を見ていた」「自分は、本件事故は信号を無視して本件交差点に入つてきた原告車の一人相撲であると思う」との供述部分は、前掲証拠および弁論の全趣旨に徴するとき、かなり不自然であり容易に信用できず、証人中根稔の証言も前記認定を左右するものではなく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

二  責任原因

1  被告会社の運行供用者責任

請求原因2項(一)の事実は当事者間に争いがないところ、前記認定の本件事故の態様に鑑みれば、自動車運転者である被告大西において、自動車の運行に関し注意を怠らなかつたとは認められず、却つて、同人には信号機により交通整理の行われている交差点に進入するにあたり、信号の表示を確認しないまま不用意に赤色信号であるのに交差点内に自動車を運転進入した過失により本件事故を発生させたことが認められるので、被告会社の免責の抗弁はこれを認め得ず、従つて、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故による原告らの損害(人損)を賠償する責任がある。

2  被告会社の使用者責任

請求原因2項(二)の事実は過失の点を除いて当事者間に争いがないところ、前記認定の事故の態様によれば、被告大西は本件交差点内に自動車(大型バス)を運転進入するにあたつては、対面信号機の表示する信号に従がうべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、信号の表示を確認しないまま不用意に交差点内に進入した過失により、おりから青色信号で本件交差点に進入し、同交差点を直進通過しようとした原告車を前記経緯で横転させたものと認められるから、被告会社は民法七一五条一項により、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

3  一般不法行為責任―被告大西

前記認定の事故の態様事実によれば、被告大西は、前記2(被告会社の使用者責任の項)で認定した過失により本件事故を発生させたものと認められるから、同被告は民法七〇九条により、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

三  損害

(原告阿部保夫関係)

1  車両修理費

原告阿部保夫本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第八号証の一、二によれば、原告阿部は、本件事故当時被害車両(登録番号岡一ま七七九号、車台番号ZM七〇一―一〇四四三号)を所有し、従業員である原告柚上に運転させていたところ、本件事故のため右車両を破損し、その修理費として金九六万九〇四〇円を修理先の岡山日野自動車株式会社に支払つた事実が認められる。

2  車両牽引、搬送費

原告阿部保夫本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第四号証の一、二、第五号証の一、二によれば、原告阿部は、事故現場に横転し破損した被害車両を引きおこし、岡山市西長瀬所在の岡山日野自動車サービス工場まで搬送した費用として、備南工業株式会社にレツカー代一万五〇〇〇円、新井建設へ廻送費一万円を各支払つた事実が認められる。

3  建物破壊による弁償金

原告阿部保夫本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第二号証の一、二、三、第三号証の一、二によれば、原告阿部は前記被害車両の転倒により破壊した玉野市役所日比出張所の庁舎修理費として金六〇万〇八二〇円、その隣家である高尾酒店(高尾勝郎方)の修理費として金七万円を各支払つた事実が認められる。

4  治療費立替払

原告阿部保夫、原告柚上賢二各本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第七号証の一、二、三によれば、原告阿部は、本件事故で負傷した自己の従業員である原告柚上の治療費として、玉野市内の松田外科医院へ金二万四五四九円(受傷当日から昭和四六年四月二一日までの分)、倉敷市内の村山外科へ金一万四五〇五円(昭和四六年四月二一日から同年五月一五日までの国保三割負担分)を各支払つた事実が認められる。

5  休車損

原告阿部保夫本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第一〇号証によれば、原告阿部は、事故当時被害車両を使用して山土等を運搬することにより一か月平均二一万二八五三円の純益を得ていたが、本件事故による車両破損のため昭和四六年四月一〇日から修理後納車があつた同年六月四日(甲第八号証の一により認める)までの五五日間(一・八〇八月相当)右車両を使用できず、そのため金三八万四八三八円の損害をうけた事実が認められる。右金額をこえる分については、これを認めるに足る証拠がない。

(原告柚上賢二関係)

1  休業損害

原告柚上賢二、原告阿部保夫各本人尋問の結果とこれにより成立を認める甲第六号証の一、二によれば、原告柚上は、本件事故当時原告阿部にダンプカー運転手として雇用され、少くとも日額三〇〇〇円の収入を得ていた(但し、一か月のうち第一、第三日曜日は休日で無給)が、本件事故のため頭部挫傷、脳震盪、頸椎挫傷、腰部・右下肢挫傷および挫創の傷害をうけ、右治療のため昭和四六年四月一〇から同年五月一五日まで三五日間入院、以後二一日間通院し、この間休業を余儀なくされ、少くとも合計一六万二〇〇〇円(第一、第三日曜日は、いずれにしても無給なので休業日数は五四日、一日三〇〇〇円の割合により算出)の収入を失つた事実が認められる。右金額をこえる分については、これを認めるに足る証拠がない。

2  慰藉料

本件事故の態様、原告柚上の傷害の部位、程度、治療の経過、加害者側の事故原因に関する弁解、被害弁償についての交渉に関する基本的態度、その他諸般の事情を考えあわせると、右原告の慰藉料額は金四〇万円とするのが相当であると認められる。

四  過失相殺

成立に争いのない乙第六、第二〇号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一一号証、鑑定人匂坂操の鑑定結果によれば、本件事故現場交差点における原告柚上の進行道路の指定制限速度は時速五〇キロメートルであつたにも拘らず、同原告は当時これを超過する時速六〇から六二キロメートルの高速で本件交差点内に進入したこと、このような高速運転も本件事故発生の一因となつていることが認められる。右の事実に前記一で認定した事故態様をあわせ考えると、本件事故の発生については原告柚上にも速度違反の過失が認められるところ、さきに認定の被告大西の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、職権により過失相殺として原告らの損害の各二割を減ずるのが相当と認められる。

五  結論

よつて被告両名は各自、原告阿部保夫に対し金一六七万一〇〇一円およびこれにつき本件不法行為の後である昭和四六年五月二三日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告柚上賢二に対し金四四万九六〇〇円およびこれにつき前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求はいずれも右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求はそれぞれ理由がないから棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

別紙見取図

<省略>

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